2026年10月1日時点の制度に基づいています。
駐在員事務所は、外国企業が日本で市場調査や情報収集、本社との連絡などを行う拠点です。登記は不要ですが、営業活動はできません。契約の締結、販売、請求など収益を生む活動を始めるなら、日本支店か日本法人を設けます。
駐在員事務所とは:支店・日本法人との違い
「駐在員事務所」は、法律で定められた制度の名前ではありません。営業を行わない連絡拠点を指す、実務上の呼び方です。
会社法では、外国会社が日本で継続して取引をするには、外国会社の登記が必要です(会社法818条)。駐在員事務所は継続的な取引を行わないため、登記をせずに置くことができます。
| 項目 | 駐在員事務所 | 日本支店 | 日本法人 |
|---|---|---|---|
| 登記 | 不要 | 外国会社の登記が必要 | 設立登記が必要 |
| 営業活動 | できない | できる | できる |
| 法人格 | 本社の一部 | 本社の一部 | 本社とは別の法人 |
| 口座・賃貸借の名義 | 事務所名義ではできない | 外国会社として契約できる | 日本法人として契約できる |
| 法人税 | 補助的な活動に限れば原則かからない | 恒久的施設として課税 | 内国法人として課税 |
駐在員事務所でできること
駐在員事務所の活動は、本社の事業にとって準備的・補助的なものに限られます。代表的な活動は次のとおりです。
- 日本市場の調査、業界や競合の情報収集
- 本社への報告や連絡
- 本社の製品やサービスの広告宣伝
- 見本の展示
- 取引先候補との面談や関係づくり(契約の締結は本社が行う)
日本進出の前段階として、市場の反応を確かめたり、提携先を探したりする用途に向いています。
登記は不要ですが、人を雇う場合や本社から駐在員を送る場合には、税務署や出入国在留管理庁での手続きが必要になります。日本での活動を始める前に、必要な手続きを一覧にしておきます。
駐在員事務所でできないこと
- 日本の顧客との契約の締結
- 商品の販売やサービスの提供
- 請求書の発行や代金の受領
- 受注や価格交渉など、営業の中心となる活動
- 事務所名義での銀行口座の開設や不動産の賃借
実態として営業を行った場合のリスク
名称が駐在員事務所でも、実際に営業を行えば、登記をせずに日本で継続して取引をしたことになります。取引をした人は会社と連帯して責任を負い、過料の対象にもなります。
税務上も、恒久的施設があると判断され、法人税の申告が必要になる可能性があります。活動の範囲は、社内の規程や駐在員の職務内容で明確にしておきます。
本社が日本の顧客と直接契約する場合の注意点
駐在員事務所が契約を結ばず、海外の本社が日本の顧客と直接契約する形は一般的です。ただし、駐在員が実質的に交渉をまとめ、本社は形式的に署名するだけという運用には注意が必要です。
平成30年度の税制改正で、契約の締結に至るまで主要な役割を果たす人がいる場合も、恒久的施設(代理人PE)と判断され得るよう見直されました。駐在員の役割は、情報提供や本社への取り次ぎにとどめます。
口座と事務所の契約は誰の名義になるか
駐在員事務所は法人格も登記もないため、事務所の名義では銀行口座の開設や賃貸借契約ができません。本社、または駐在員事務所の代表者個人が契約の当事者になります。個人名義の口座を使う場合は、事務所の経費と個人の資金を分けて管理します。
駐在員事務所の税務:恒久的施設に当たるか
外国法人が日本で法人税を納めるかどうかは、日本に恒久的施設(PE)があるかが基準の一つです。事業を行う一定の場所は、原則として恒久的施設に当たります。
ただし、保管・展示・引渡しや購入、情報収集など特定の活動のみを目的とする場所は、その活動が準備的・補助的な性格のものであれば、恒久的施設に含まれません。
平成30年度改正で「準備的・補助的」の要件が明確に
平成30年度の税制改正で、この例外は、活動が準備的・補助的な性格のものである場合に限ると明確にされました。国税庁の通達では、補助的な活動とは、事業の本質的で重要な部分を支援するもので、その部分を構成しない活動をいいます。
本社との租税条約にも、恒久的施設の規定があります。本社の所在国と日本の条約もあわせて確認します。
給与の源泉徴収と届出
日本で人を雇い給与を支払う場合は、所得税の源泉徴収が必要です。給与の支払事務を行う事務所を開設したときは、開設から1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出します。
雇用する人数や働き方によっては、社会保険や労働保険の手続きも必要になります。詳しくは社会保険・労働保険の加入義務で解説しています。
駐在員事務所の設置の流れ
- 本国で、駐在員事務所の設置について社内の承認を得る
- 活動の内容と期間を決める(営業を行わない範囲を明確にする)
- 代表者(駐在員)を決める
- 事務所を確保する(本社または代表者の名義で契約)
- 外国から駐在員を送る場合は、在留資格を申請する
- 現地で採用する場合は、税務署への届出や保険の手続きを行う
代表者は誰がなるか
駐在員事務所の代表者は、日本人でも外国人でもかまいません。外国人を代表者とする場合は、その人が日本での活動に合った在留資格を持っている必要があります。代表者は、事務所の契約や口座の名義人になることが多いため、本社との間で責任の範囲を書面で決めておきます。
活動の記録を残す
税務調査や在留資格の更新では、日本での活動内容を説明する場面があります。調査報告や本社への連絡の記録、出張の記録などを保存しておくと、活動が準備的・補助的な範囲であることを示しやすくなります。
駐在員の在留資格(企業内転勤)
本社から駐在員を送る場合、在留資格「企業内転勤」がよく使われます。外国にある本店や支店などの職員が、期間を定めて日本の事業所に転勤し、「技術・人文知識・国際業務」に当たる業務を行うための在留資格です。
- 転勤の直前に、外国の本店・支店などで1年以上継続して勤務していること
- 日本人が同じ業務に従事する場合と同等額以上の報酬を受けること
駐在員事務所への転勤でも、この在留資格の対象となり得ます。審査では、事務所が実在することや、日本での活動内容の説明が求められます。現地採用の外国人社員については、外国人社員の採用と就労ビザをご覧ください。
支店・日本法人への切り替えのタイミング
次のような段階に進むときは、日本支店か日本法人の設置を検討します。
- 日本の顧客と直接契約を結びたい
- 日本で請求書を発行し、代金を受け取りたい
- 日本で従業員を本格的に増やしたい
- 許認可が必要な事業を始めたい
市場調査の結果、日本で売上が見込めると判断した時点が、切り替えを考える目安です。駐在員事務所の期間に集めた情報は、日本法人の事業計画や在留資格の申請書類を作るときの材料になります。調査の結果は、数字や取引先候補の一覧など、後で使える形でまとめておきます。
駐在員事務所を支店や日本法人に変更する手続きはありません。外国会社の登記か会社設立を新たに行い、事務所の契約や雇用を引き継ぎます。外国書類の準備には時間がかかることがあるため、営業開始の時期から逆算して準備します。形態の選び方は、日本支店と日本法人(子会社)の違いで比較しています。
まとめ
駐在員事務所は、登記をせずに置ける連絡拠点です。市場調査や情報収集には向いていますが、営業活動はできません。活動が準備的・補助的な範囲を超えると、登記義務や法人税の問題が生じます。
TIMOAは、提携する行政書士、税理士、社会保険労務士とともに、駐在員事務所の活動範囲の整理、駐在員の在留資格、税務の届出、支店・日本法人への移行までを支援します。日本進出・会社設立の支援内容もご覧ください。
よくある質問
駐在員事務所の設置に登記は必要ですか?
登記は不要です。外国会社の登記が必要になるのは、日本で継続して取引をする場合です(会社法818条)。営業を行わない駐在員事務所は登記の対象になりません。
駐在員事務所は法人税を納める必要がありますか?
活動が情報収集などの準備的・補助的なものに限られる場合、原則として恒久的施設に当たらず、法人税はかかりません。営業の実態があれば恒久的施設と判断される可能性があります。
駐在員事務所で日本人を雇うことはできますか?
雇用はできます。給与を支払う場合は所得税の源泉徴収が必要で、給与支払事務所等の開設届出書を税務署に提出します。
駐在員はどの在留資格で働きますか?
海外の本社などで1年以上勤務した職員を転勤させる場合、在留資格「企業内転勤」が使われることが多くあります。要件を満たさない場合は、他の就労資格を検討します。
参考・出典
- 法務省 外国会社の登記について www.moj.go.jp
- 国税庁 法人税基本通達 第20章 外国法人の納税義務 www.nta.go.jp
- 国税庁 法人税基本通達の解説 20-1-3 補助的な性格のものの意義 www.nta.go.jp
- 出入国在留管理庁 在留資格「企業内転勤」関係資料 www.moj.go.jp