M&A・事業承継・撤退

企業価値評価の方法|DCF法・類似会社比較法・純資産法の違いと使い分け

M&Aや株式譲渡の価格を考えるとき、企業価値評価(バリュエーション)は欠かせません。DCF法・類似会社比較法・純資産法の仕組みと注意点、企業価値と株式価値の違い、税務上の時価との関係を、M&Aでの使い分けとあわせて解説します。

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TIMOA編集部
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2026年10月1日時点の制度に基づいています。

企業価値評価(バリュエーション)は、M&Aや株式譲渡で価格の目安を出す作業です。主な方法は、将来の収益から求めるDCF法、上場している類似会社と比べる類似会社比較法、資産と負債から求める純資産法の三つです。実務では一つの方法に頼らず、複数の結果を比べて価格の幅を決めます。

企業価値評価の3つのアプローチ

日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」は、評価方法をインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つに分けています。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、DCF法や時価純資産法などが代表的な方法として紹介されています。

アプローチ 代表的な方法 考え方 向いている会社
インカム DCF法 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く 事業計画を作れる会社、成長企業
マーケット 類似会社比較法(マルチプル法) 上場している類似会社の株価の倍率を当てはめる 比較できる上場会社がある会社
ネットアセット 簿価純資産法、時価純資産法 資産から負債を引いた純資産で評価する 資産を多く持つ会社、収益が安定しない会社

上場会社には市場の株価がありますが、非上場会社の株式には取引の相場がありません。そのため、M&Aや株主間の譲渡では、評価によって価格の目安を作る必要があります。

インカム・アプローチは将来の収益力を、ネットアセット・アプローチは現在の財産を重視します。同じ会社でも、方法によって結果は大きく変わります。

企業価値と株式価値の違い

評価の結果を読むときは、どの「価値」を指しているかを確認します。

  • 事業価値:本業が生み出す価値
  • 企業価値:事業価値に、余剰資金や遊休資産など本業以外の資産を加えたもの
  • 株式価値:企業価値から、有利子負債などを差し引いたもの

株式譲渡で買手が支払うのは株式価値です。何を負債として差し引くかは、交渉の大きな論点になります。退職金の支払義務、リース、未払残業代などをどう扱うかで、価格が変わります。こうした項目はデューデリジェンスのチェックリストに沿って確認します。

DCF法の仕組みと注意点

DCF法は、会社が将来生み出すキャッシュフローを、現在の価値に割り引いて合計する方法です。

  1. 事業計画をもとに、各年のフリーキャッシュフローを見積もる
  2. 資本コストを反映した割引率を決める
  3. 計画期間より後の価値(継続価値)を見積もる
  4. 各年の価値を現在価値に割り引いて合計し、事業価値を出す
  5. 余剰資金などを加え、有利子負債などを差し引いて株式価値を出す

将来の収益力を反映できる一方、前提に左右されやすい方法です。

  • 事業計画が楽観的だと、評価額が高くなりすぎる
  • 割引率や成長率のわずかな違いで、結果が大きく変わる
  • 親会社やオーナーとの取引に頼っている会社は、買収後のコストの変化を織り込む必要がある

売主が作った事業計画は、過去の実績や市場の状況と照らして検証します。

割引率と継続価値の考え方

割引率には、株主と債権者が求める収益率を加重平均した資本コスト(WACC)を使うのが一般的です。株主の期待収益率は、国債などの安全な利回りに、株式のリスクに応じた上乗せを加えて求めます。非上場の中小企業では、規模の小ささなどを理由にリスクを上乗せすることもあります。

評価額のうち、計画期間より後の継続価値が占める割合は大きくなりがちです。永続的な成長率をどう置くかは、根拠を示して説明できるようにします。

類似会社比較法(マルチプル法)の仕組みと注意点

類似会社比較法は、事業内容が近い上場会社の株価から倍率を求め、対象会社の利益などに当てはめる方法です。よく使われる倍率には、EV/EBITDA倍率(企業価値÷償却前営業利益)、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)があります。

例えば、類似会社のEV/EBITDA倍率の中央値が6倍で、対象会社のEBITDAが1億円なら、事業価値の目安は6億円です(数字は説明のための仮の例です)。

市場の評価を反映できる点が利点です。ただし、次の点に注意します。

  • 規模や成長性、収益構造が近い上場会社が見つからないことがある
  • 非上場株式は売買しにくいため、その分を割り引いて考えることがある
  • 株式市場の相場に結果が左右される

純資産法(簿価・時価)の仕組みと注意点

純資産法は、貸借対照表の資産から負債を差し引いて評価する方法です。帳簿の金額をそのまま使う簿価純資産法と、資産・負債を時価に置き換える時価純資産法があります。

時価純資産法では、不動産や有価証券の含み損益を反映し、帳簿に載っていない債務も加えます。分かりやすく客観的な一方、将来の収益力は反映されません。含み益のある資産を将来売却すると税金がかかるため、その税負担を差し引いて考えることもあります。

中小企業のM&Aでは、時価純資産に、収益力を示す営業権(のれん)を加える簡便な方法が使われることもあります。営業権を何年分の利益で見るかに決まった基準はなく、交渉で決まります。

税務上の時価との違い:相続税評価と移転価格

当事者が合意した価格と、税務上の時価は別のものです。取引の相手によっては、税務上の時価との差に課税されることがあります。

相続・贈与の評価(取引相場のない株式)

取得した株主 評価方式
同族株主等(大会社) 原則として類似業種比準方式
同族株主等(中会社) 原則として類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
同族株主等(小会社) 原則として純資産価額方式
同族株主以外の株主 配当還元方式

これは国税庁の財産評価基本通達による、相続税・贈与税のための評価です。M&Aの価格とは目的が違います。評価の方法は通達の改正で変わることがあるため、実際の評価の際は、評価時点の財産評価基本通達と国税庁の案内を確認します。

親族間・関係会社間の取引

個人が法人に時価より著しく低い価格で株式を譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして課税される場合があります。法人間の取引では、時価との差額が寄附金や受贈益として扱われることがあります。海外の親会社など国外関連者との取引では、移転価格税制により独立企業間価格での取引が求められます。詳しくは移転価格税制の基本をご覧ください。

評価方法の選び方と価格の決まり方

会社の特徴 重視されやすい方法
成長中で、事業計画を作れる会社 DCF法
収益が安定し、比較できる上場会社がある会社 類似会社比較法とDCF法の併用
不動産などの資産が多い会社、赤字の会社 時価純資産法

評価額は一つの数字ではなく、幅で示されるのが一般的です。最終的な価格は、評価の幅をもとに、買手の相乗効果、競合する買手の有無、契約条件などを踏まえた交渉で決まります。買収の全体の流れは日本企業の買収(M&A)の流れで解説しています。

評価に使う主な資料

  • 直近数期分の決算書と勘定科目内訳書
  • 事業計画と、その前提となる受注・顧客の情報
  • 固定資産台帳、不動産の評価資料
  • 借入金、リース、保証の明細
  • 役員・従業員の一覧と、退職金規程

外国企業が当事者になる場合は、本国の会計基準と日本の会計基準の違いや、為替の扱いも整理します。独立した第三者が作った評価書は、本国の取締役会への説明や、税務上の説明資料として役立ちます。

TIMOAにできること

企業価値評価は、方法の選び方と前提の置き方で結果が大きく変わります。複数の方法で幅を確認し、税務上の時価との関係もあわせて検討することが大切です。

TIMOAは、提携する税理士などの専門家とともに、評価の前提となる決算書や事業計画の整理、税務上の時価の確認、売主・買主との条件調整を、中国語と日本語で支援します。詳しくはM&A・事業承継・撤退のページをご覧ください。

よくある質問

企業価値と株式価値はどう違いますか?

企業価値は事業価値に余剰資金などを加えたものです。そこから有利子負債などを差し引いたものが株式価値で、株式譲渡で買手が支払うのは株式価値です。

中小企業の評価ではどの方法がよく使われますか?

事業計画が作りにくく、比較できる上場会社も少ないため、時価純資産をもとに収益力を加味する方法が使われることがあります。案件に応じて、DCF法などと併用して検討します。

M&Aの価格は相続税評価額で決めてもよいですか?

相続税評価額は相続や贈与の課税のための評価で、M&Aの価格とは目的が違います。親族間や関係会社間の取引では、税務上の時価との差に課税されないかを確認します。

海外の親会社に日本子会社の株式を譲渡するときの価格はどう決めますか?

国外の関連者との取引には移転価格税制が適用され、独立企業間価格での取引が求められます。評価の根拠を文書で残すことが大切です。

参考・出典

  1. 経済産業省・中小企業庁 中小M&Aガイドライン(第3版) www.meti.go.jp
  2. 国税庁 タックスアンサー No.4638 取引相場のない株式の評価 www.nta.go.jp

執筆

TIMOA編集部

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の法律・税務上の助言ではありません。制度は改正されることがあるため、具体的なお手続きの前にご相談ください。

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