知財・リスク・コンプライアンス

商標の冒認出願(先取り)対策|日本と中国で取れる予防策と対抗手段

冒認出願(先取り出願)は、他人のブランドを無断で商標出願することです。日本も中国も先願主義のため、早めの出願が最大の予防策です。先取りされたときに日本と中国で使える対抗手段と期限、2027年施行の中国商標法改正の要点を解説します。

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執筆
TIMOA編集部
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2026年10月1日時点の制度に基づいています。

冒認出願(先取り出願)は、他人のブランドを無断で商標出願することです。日本も中国も、先に出願した人が登録を受ける先願主義のため、自社で早く出願することが最大の予防策です。先取りされた場合は、日本では情報提供・登録異議・無効審判・取消審判、中国では異議・無効宣告・不使用取消などで対抗します。

冒認出願(先取り)とは:よくあるパターン

商標権は国ごとに発生します。ある国で長く使ってきたブランドでも、別の国で他人に先に出願されると、その国では登録を受けられないおそれがあります。

  • 販売代理店・取引先:交渉中や契約中の代理店が、自社の名義で出願する
  • ブローカー:進出前のブランドを出願し、買取りを持ちかける
  • 元従業員・合弁の相手:関係が終わった後に、ブランドを出願する
  • 表記の違いを狙った出願:漢字、カタカナ、英字、中国語の表記のうち、未出願のものを出願する

先取りされると、自社のブランドを使えなくなるだけでなく、権利侵害を主張されたり、ネット通販の出品を止められたりするおそれがあります。日本の商標制度の基本は日本での商標登録の流れで解説しています。

先取りされる前の予防策

  1. 進出前に出願する:代理店との交渉、展示会、ウェブでの告知など、ブランドを公にする前に出願します。
  2. 使う表記をすべて押さえる:日本では漢字・カタカナ・英字・ロゴ、中国では簡体字や中国語の呼び名も検討します。
  3. 香港は別に出願する:中国本土で登録しても、香港では保護されません。香港には独自の商標制度があり、香港特別行政区政府の知的財産署に出願します。
  4. 契約で手当てする:代理店契約や秘密保持契約に、無断出願の禁止と、出願した場合に権利を移す義務を定めます。
  5. 監視する:日本の公開商標公報や、中国の商標の公告を定期的に確認します。
  6. 使用の証拠を残す:売上、広告、報道、取引の記録は、後で周知性や先の使用を示す証拠になります。

会社名を登記しても、商標権を得たことにはなりません。商号と商標の関係は商号(会社名)のルールを、契約での手当ては日本の契約書の注意点をご覧ください。

代理店契約に入れておきたい条項

  • 商標とブランドの権利は本社に帰属すること
  • 代理店は、本社の承諾なく商標を出願・登録しないこと
  • 違反して出願・登録した場合は、本社に権利を移すこと
  • 契約が終わった後は、商標の使用をやめること
  • ドメイン名やSNSのアカウントの帰属

日本で先取りされた場合の対抗手段

段階 手段 期限・条件 請求できる人
審査中 情報提供 審査の結論が出る前 誰でも
登録後 登録異議の申立て 商標掲載公報の発行日から2か月以内 誰でも
登録後 無効審判 理由によっては設定登録から5年の期間制限がある。不正の目的による出願を理由とする場合などは期間制限がない 利害関係人
登録後 不使用取消審判 継続して3年以上、日本で使われていない場合 誰でも
登録後 代理人等による登録の取消審判 設定登録から5年以内 外国などで商標の権利を持つ者

主な登録できない理由

  • 外国で周知な商標の不正目的の出願:日本または外国で広く知られた商標と同一・類似で、不正の目的で出願されたもの(商標法4条1項19号)。高額で買い取らせる目的や、日本への参入を妨げる目的などが典型です。
  • 日本で周知な他人の商標:日本国内で広く知られた他人の商標と同一・類似のもの(同10号)。
  • 代理人・代表者による無断の登録:外国の権利者の代理人や代表者が、正当な理由なく承諾を得ずに登録したもの(商標法53条の2の取消審判)。

立証で重要になること

いずれの手段でも、証拠が勝負を分けます。外国での販売実績、広告、報道、登録の状況で周知性を示し、相手との取引の経緯や買取りの要求で不正の目的を示します。先取りした商標を相手が使っていなければ、不使用取消審判も有効な手段です。この審判では、請求の登録前3年以内に日本で使用していたことを、権利者の側が証明する必要があります。

商標登録の有無とは別に、広く知られた表示と混同を生じさせる行為については、不正競争防止法に基づいて差止めを求められる場合もあります。

買取りを持ちかけられても、すぐに応じるのは避けます。争った場合の見込みと費用を比べてから判断します。

中国で先取りされた場合の対抗手段

中国本土の商標は、国家知識産権局(CNIPA)が審査・登録します。香港の企業や、中国本土に進出する日本企業のブランドが先取りされる例があります。中国では外国のブランドに中国語の名前を付けて使うことが多く、中国語の表記だけが先取りされる例もあります。現行の商標法(2019年改正)では、主に次の手段があります。

手段 期限・条件(現行法) 主な理由
異議申立 初歩審定の公告から3か月以内 使用を目的としない悪意の出願、代理人・代表者による出願、先に使用され一定の影響がある商標の不正な先取りなど
無効宣告 先の権利に基づく理由は登録から5年以内(悪意による馳名商標の登録には期間制限なし)。欺瞞的な手段による登録などは期間制限なし 異議と同様の理由など
不使用取消 正当な理由なく連続3年使用していない場合 不使用

日本と中国の制度の比較

項目 日本 中国(現行法)
審査する機関 特許庁 国家知識産権局
出願の原則 先願主義 先願主義
異議の期限 商標掲載公報の発行日から2か月以内 初歩審定の公告から3か月以内
不使用による取消し 継続して3年以上の不使用 連続3年の不使用

2027年1月1日施行の改正商標法

2026年6月26日、全国人民代表大会常務委員会は商標法の全面改正を可決しました。施行は2027年1月1日です。1983年の施行以来初めての全面改正で、条文は8章73条から9章87条に増えます。

国家知識産権局などの発表では、悪意の先取り(抢注)などへの対策の強化、公衆に誤認を生じさせる商標への規制、監督の規則の細分化、処罰の強化が改正の柱とされています。

  • 使用を目的としない悪意の出願や、他人のブランドの先取りへの対策を強化する
  • 公衆に誤認を生じさせる商標への規制と監督を強める
  • 違反に対する処罰を強化する

具体的な罰則の内容や手続きの細目は、改正後の条文と今後の運用で確認する必要があります。施行後は、条番号や手続きの要件が変わる可能性があります。中国で手続きをする際は、改正後の条文と運用を、中国の商標代理機構に確認します。

日本の中小企業向けには、ジェトロが海外で先取りされた商標の異議・無効などの費用の一部を助成する事業を行っています。対象、要件、公募の有無は年度ごとに確認が必要です。

先取りに気づいたときの初動

  1. 公報や出願の情報、相手とのやり取りを保存する
  2. 異議の期限(日本は2か月、中国は3か月)を確認し、スケジュールを組む
  3. 自社でも、使う表記で出願を進める
  4. 相手との交渉の窓口を一つにし、不用意な発言を避ける
  5. 日本は弁理士、中国は現地の商標代理機構と、手段の選び方を相談する

先取りした相手から、商標権の侵害を理由に警告書が届いたり、通販サイトに申告されて出品を止められたりすることがあります。取引への影響に備え、自社が先に使っていた証拠と、争う手段の見通しを早めに整理します。日本では、相手の出願より前から使っていて、その時点で日本の需要者に広く知られていた場合などに、先使用権によって使用を続けられることがあります。

TIMOAにできること

冒認出願への最大の対策は、進出前の出願と、代理店などとの契約での手当てです。先取りされた場合も、日本と中国それぞれに期限のある対抗手段があるため、早く気づいて動くことが大切です。

TIMOAは、提携する弁理士とともに、日本での先行商標の調査と出願、先取りされた商標への情報提供・異議・審判の手続きを、中国語と日本語で支援します。中国側の手続きは、現地の専門家と連携して対応します。詳しくは知財・リスク・コンプライアンスのページをご覧ください。

よくある質問

販売代理店が自社ブランドを日本で勝手に出願しました。取り戻せますか?

出願中であれば情報提供、登録後であれば登録異議や無効審判で争えます。代理人や代表者による無断の登録は、設定登録から5年以内であれば取消審判を請求できます。証拠をそろえて弁理士に相談します。

中国で登録した商標は、日本でも守られますか?

守られません。商標権は国ごとに発生するため、日本で使うなら日本での出願が必要です。香港も中国本土とは別の制度です。

先取りした相手から買取りを持ちかけられました。応じるべきですか?

応じる前に、異議や無効審判で争える見込みと費用を比べます。買い取ると、ほかの表記や国でも同じ相手に先取りされるおそれがあります。

外国で有名な商標なら、日本で先に出願されても登録されませんか?

日本または外国で広く知られた商標と同一・類似で、不正の目的による出願は登録されません。ただし、周知性と不正の目的を証拠で示す必要があり、自動的に防げるわけではありません。

参考・出典

  1. 特許庁 商標登録出願に関する情報提供 www.jpo.go.jp
  2. 特許庁 TM5悪意の商標出願プロジェクト報告書 www.jpo.go.jp
  3. 国家知识产权局 人大常委会丨强化商标管理和保护 商标法完成修订(2026年6月26日) www.cnipa.gov.cn
  4. ジェトロ 抜け駆け商標無効・取消係争支援事業 www.jetro.go.jp

執筆

TIMOA編集部

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の法律・税務上の助言ではありません。制度は改正されることがあるため、具体的なお手続きの前にご相談ください。

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